
『「立命」のための学問として易を語る』
終戦の詔勅に修正の筆を入れ、元号「平成」を考案し、政界・財界の精神的指南役として知られた陽明学・東洋思想の泰斗 安岡 正篤氏。本書は同氏の10回の講話(昭和52?54)を一冊にしたもので、易の思想哲学の面の入門書のような内容だ。
この本で安岡氏の言いたいことは「易とは立命の学問である」の一語に尽きると言ってよい。安岡氏の本には漏れなく“立命のススメ”が付いてくるわけだが、安岡氏の言葉によれば、「立 命」とは自分で動かし得ない「宿 命」に対して、自分で自分の運命を創造していくこと。易も四柱推命も当たる当たらぬのことよりも、運命の法則・理法を学び、占術によって自分の運命を知り、人生を創開していくことが本筋だと説く。
平たく言うと、易占で宜しくない成り行きが示されたら、それを回避することに努めよ、と。宜しい占示があれば、その状態をより好いものにし、あるいは、長く維持することに努めよ、と。逆に、努力をしないなら、運命がそのまま「宿 命」になるよ、と。
そこで、安岡氏はしばしば荀子の大略篇の「善く易を為(オサ)むる者は占わず」を強調して占筮を酷く軽んじる。だが、易占を長いことやって来た者からすると、どれだけ考えても分からないことは昔も今もあるのであり、だから人は悩み、神に霊に問うのだ。易占はそのためにある。
前半は易とは何ぞやとか易の様々な基本概念の解説が中心。立命の要を説く「陰隲録(インシツロク)」を紹介するが、その主旨は問題ないものの、細部が原文と異なるので。
後半は64卦を簡単に解説する。「序卦伝」のように卦の配置による意味づけが中心になっていて、易占で直接 使える内容ではない。
あとがきに「本書を読み了り、易学に興味を持たれた方は「易学入門」を読まれることをお勧めする」とある。
また、同時代の易についての講演を纏めたものに「易と健康〈上〉易とはなにか」・「易と健康〈下〉養心養生をたのしむ」(ディシーエス出版局 刊)もある。